嫌われ者の世界
記録を残そうと思った。
僕も殴られているだけでは駄目だ、懐にナイフを抱えるべきだと思った。
職場に新人がやってくる。去年まで新入りで、これからも新入りを抜け出すことが無いであろう僕はその歓迎会の幹事をやることになった。
幹事とかとりまとめとか、苦手でどうにも行動が遅いが、
ひとまず、店を予約することに成功し、全体に対して時間と場所を連絡することにした。
嫌われ者の僕は日々気を使えないという言葉を恐れていて、メールを一通送ることは目をつぶり顔を差し出し、10秒間待ち、殴られるか、殴られないかを恐れながら薄目をあけるようなそんな作業の一つだった。
僕は少しでも殴られないように、気を使えないと言われないように、意識はしていた。
場所がいつもより少し遠い駅の反対側であること、集合時間がいつもより少し早いこと、ここに気を使うべきと考え、「場所が駅の反対側のため、いつもより少し遠いです、遅刻しないようお気を付けください」こう添えた。
そして送信ボタンを押す。
わずか数分後、隣の先輩と右斜め前の先輩が僕のメールを見ながら、ホント駄目なんだよなぁ、とため息をつきながら僕の方を見る。
僕は知っている、これはきっと彼らの期待する気を使えるラインに到達しなかった場合のサイン。きっと僕はこれから捧げたほほを殴られるのだろう。
「遠いって具体的にどんくらいかかるんだよ。これってどんくらいかかるかは結局自分で調べろってことか?お前の独り言はいらねぇんだよ」
僕の言葉はいつもと同じだ「すみません、気が回りませんでした」
「そういうとこが駄目なんだよな」
「はい」
今日も僕は至らず、明日は休みだ。